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2012年08月30日

病めるベトナム企業の現状


「変化に注目」

中央経済研究所のVo Tri Thanh副所長は2013年のベトナム経済について
「具体的な予測はできないが、ベトナム経済が興味深い変化を示しており、
その期間は短くても2013年の前半まで続く」と述べた。

ベトナムは2011年から今に至るまで経済不況が続いており、発表された数字も
期待とはかけ離れている。年初6ヶ月のGDP成長率は4.38%で全体の貸付資金に
成長は見られず、7月末の時点で3万社以上の企業が廃業や営業中止に陥った。

業績不振は国内外の経済不況やベトナム企業の発展戦略が持つ脆弱性の影響だ。
これらの経緯を「ベトナム企業の病める1世紀」として2012年の投資家会議が
8月中旬にハノイ・ホーチミンの両市で開催された。

銀行の借金に縛られた奴隷

「病」の中で一早く発見できるのはベトナム企業が依存する銀行への借金である。
Thanh副所長はベトナム企業の資本構造について懸念している。Thanh氏によると、
外国企業が利益の30%を使って再投資するのは普通だが、ベトナム企業では
この比率が非常に低いため、主に銀行からの借金に依存する。

Fulbright経済教育カリキュラム公的政策担当社長のNguyen Xuan Thanh氏も
Thanh副所長と同様の観点を持っている。Thanh社長によると2012年第1四半期の
ベトナム証券市場に上場している647社を対象とする調査では、借金/株主資本の
比率が1.53倍で、アメリカの1.2倍や中国の1.06倍を上回る結果となった。

巨額の借金は2000年代から続いている。銀行から多額の借金をすることは
企業にとって「両刃の刃」になる。一方、投資品目が利益を生む場合は企業全体の
利益も増えるが、赤字になれば業績は落ちる。ベトナムは経済危機に直面しているが
借金対策での弱点が露見した。金利の支払い経費は大きくなってきているが、
生産活動が中止状態のため、多くの企業が倒産に追い込まれており、典型的なのが
Bianfiscoのケースである。

Xuan Thanh氏の統計によれば、比株主資金の借金比率が最も高いのは建設、不動産、
エネルギー、資材の各分野である。これとは逆に低いのは農産物加工と日用品生産。
この10年間、ベトナム経済は不動産投資の夢に包まれていた。

また、民間に限らず国営企業も借金/株主資本の比率が平均1.71倍(財務省の統計)
になっており、特に大手企業が高い。例えば、ベトナム電力公社は4.26倍、
Song Da公社が8.85倍、HUDグループが6.36倍、Petrolimexが6.29倍、さらには
Vinalinesが4.27倍である。

当然のことながら、銀行ネットワークは企業の借金要請に対応するため、規模と数を
拡大させてきた。2011年末現在で銀行ネットワークの資本金は2004年の9倍を超える
増加となった。また、銀行の資金貸付額/GDPも年を追うごとに増加している。比率は
2000年の40%から2010年で130%に増えた。このスピードはフィリピンをはじめ、
インドネシア、タイ、マレーシアの銀行よりはるかに速い。

簡単に借金できることで企業は営業分野を多様化し、ハイリスク・ハイリターンの分野
(不動産、証券等)に積極的な投資を行ったため、これらが動きを止めると、活動に
マイナスの影響を受ける。

企業が困窮すれば銀行も同様となる。多くの銀行で会計報告書に掲載された不良社債の
比率は高いものではないが、多額の不良社債を隠して他に着手した(他の資産と社債)ため
これらの金額が急増している(2011年と2010年における37行の会計報告書に基づいて
分析した結果による)。

営業分野の多様化は吉か凶か?

Xuan Thanh氏は営業分野の多様化が企業の業績悪化につながったとしているが、
VCP (Vietnam Capital Partners)のNguyen Nam Son専務は「複数の分野に対する投資が
大部分の企業で発生したことによる。大企業の多くは銀行、証券、不動産などに投資した。
今後2年間で90%の証券会社がクロージングし、残るのは5社~7社だろう」と述べた。

経営が良好なのはSSI(サイゴン証券株式会社)とSBS(Sacombank証券株式会社)の2社。
SSIはリスク管理、自己売買、資産管理、投資銀行、研究、仲介等の強い分野を中心に
展開しているが、SBSは逆の動きを示している。SSIは市場が悪化しても利益に影響が
及ぶことはないが、SBSは大きな赤字となる。

また、Kinh Do とVinamilk のケースでは、Kinh Doの不動産投資活動が芳しくないため、
最近の業績が悪化している。同社は2007年から今までに各不動産案件に総資産の約13%を
投資した。利用効果は純利益/株主資本(ROE)が10%以下で2007年と同等だった。
一方のVinamilkは40%の増加となった。

Nam Son氏によると、多くの分野に投資した理由は色々ある。一つ目は取締役会と
運営チームに経験や知識が不足していたため、効果的な運営ができなかったこと。また、
決定を出すための独立性がなく、越権行為があった。二つ目は長期的な投資・財政戦略を
立てなかったため、市場についてよく理解できていなかったことだ。

Capital Land(シンガポール)の取締役会における活動方式とベトナム企業のものを
比較するとよく分かる。Capital Landでは会長から社長までの支配人が全員60歳以上だ。
学位は経営・経済修士もしくは博士であり、Shell、Goldman Sachs、Deutsche Bank等の
世界的な金融機関で長期間の就業経験がある。ベトナムでは支配人の平均年齢が32歳で
国際金融業界での就業経験はなく、財政とは無関係の分野で学習した政府要人の親戚等だ。

ベトナム企業の運営者は長期的な営業・財政戦略に役立つ知識と経験を持っていない。
Nam Son氏は「5年~10年の営業計画を立てている企業が少なく、1年ごとの計画しか
持たない企業がほとんどだ」と述べた。

DOJI株式会社のDo Minh Phu会長(Dianaの会長)は6つの子会社を経営している。
これらはアクセサリー、レストラン、鉱山採掘、工業、商業、日用品等、別々の分野で
活動している。Phu氏によると複数の分野に投資するのは悪くないが、適切で一番効果的な
分野の選択が重要である。そのため、Phu氏は新たな分野の開拓は慎重に検討を重ねる。

元ベトナム元商業省大臣のTruong Dinh Tuyen氏によれば、ベトナムは韓国のやり方を
真似て銀行のオーナーは他の企業を所有できないようにした方が良いそうだ。

不動産市場の寿命はあと2年

多数の分野で活動している企業はほとんどが不動産投資と関連している。Nam Son氏は
「今後の2年間で大部分の不動産会社が倒産するだろう」と述べた。

不況の典型例が住宅市場である。高級マンションは値下がっているが、購入者はいない。
多くの投資家はこの状況を受け、実施中の案件を中止しなくてはならなくなっている。
例えば、Saigon Residences、Saigon One (M&C)、New Pearlなどの案件である。
住宅だけでなくオフィス市場も非常に苦戦している。この2年間でハノイ市における
オフィス市場では供給源の増加率が年間30%を超えている。2014年の時点で供給源が
200万平米に達し、控率は40%を越えた。また、賃貸料も下がり続けている。

CBRE Viet NamのMarc Townsend社長は住宅市場の早期回復が望めず、インフレと金利が
年間10%以下になった時点から市場が回復するまで6ヶ月かかると見込んでいる。

また、REEのNguyen Thi Mai Thanh社長は、不動産分野に参入したがる企業が知識を
持たなければならないと述べ、ベトナムの土地は要請―認可の方式で供給されるため、
政府機関と関係の深い企業が広い土地を確保できる。市場が急速に成長し過ぎたこと、
銀行から借金が簡単に出来たことが不動産市場を悪化させた最も大きな原因だとした。

現在、ベトナムの不動産会社は大きなリスクと対峙している。借金/株主資本の比率は
120%に達しているが、東南アジアの同じ分野で活動している企業は平均45%程度だ。
また、借金+金利/税引き前の利益が10倍を超えている会社が多く、Phat Dat不動産、
Sacomreal、Quoc Cuong Gia Lai、Kinh Bacなどがこれにあたる。市場が悪化すると、
倒産のリスクに対面しなくてはならないため、不動産に投資している企業は早いうちに
リリースする必要がある。

Nam Son氏によると、不動産価格が現在より50%下がらなければ、アジアの他国と
同等にならない。ベトナムではマンションの販売価格が1部屋6万USD~10万VNDで
投資家は工事費用か部屋の面積を減らすしかない。バンコクでは新築マンションの
90%が50平米以下である。

5年後に不動産市場の回復が見込まれているため、今後2年間が最も苦しい時期となる。
Townsend氏は在庫品開放のため、投資家が価格を妥協しなくてはいけないとしている。

難航必至の資金源探し

このように「病」は診断できたが、治療はどのような方法なのか?
JP Morgan VietnamのDominic Price社長によると、証券市場の規模がまだ小さく
(取引額が1日約2,500万USD~3,000万USD)、最近は銀行の資金貸付成長が
抑えられているため、国際市場を通じて資金を調達することがベトナム企業にとって
有効な対策となる。

昨年はM&A案件が260件に達し、取引総額が37億USD近く達成した。最も積極的に
取引された分野は加工産業(2011年に全体の24%占めた)、日用品(20%)、
資材(16%)、銀行(15%)および不動産(8%)である。

各企業は国際市場で株式の個別発行または転換社債発行を通じて資金を調達できる。
外国証券市場に上場することも一つの対策である。

しかし、ベトナムでは企業の債券市場がまだないため、国際市場での社債発行が
国に対する信用とブランドの重要な要素になる。 ベトナムの企業ではVingroupが
シンガポール市場での社債発行を成功させた。ただ、このような例は非常に少ない。

ベトナムの債券市場を整備するには7年~10年かかるだろう。

Vneconomy.net  2012年8月30日

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